• 検索結果がありません。

田原太平(助教授) 分子研リポート2001 | 分子科学研究所

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "田原太平(助教授) 分子研リポート2001 | 分子科学研究所"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

144 研究系及び研究施設の現状

田 原 太 平(助教授)

A -1)専門領域:分子分光、光化学

A -2)研究課題:

a) 極短フェムト秒光パルスを用いた凝縮相分子の核波束運動の実時間観測 b)フェムト秒時間分解蛍光・吸収分光による光化学ダイナミクスの研究

c) ピコ秒時間分解振動分光による光化学短寿命種と振動緩和ダイナミクスの研究 d)時間分解分光法における実験手法の開発

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 光パラメトリック増幅( OPA )により発生させたサブ 10 fs の光パルスを用いてポンプ−プローブ測定を行い,光励 起直後の電子励起状態分子における核波束運動を観測した。特に,光解離反応をするジフェニルシクロプロペノン や光プロトン移動反応をするヒドロキシベンゾキノリンなど「反応する分子」の核波束運動観測へと研究を進め,こ れら分子の電子励起状態での核波束運動の観測に成功した。

b1) アントラキノンヒドロキシ誘導体の分子内光プロトン移動をフェムト秒時間分解蛍光分光法で系統的に研究した。 1,8-ジヒドロ体,1,5-ジヒドロ体など分子内光プロトン移動を示すとされる分子について,互変異性体型の蛍光が光 励起後 50 fs以内に現れること,すなわち励起状態でのプロトン移動が 50 fs以内で起こること,を見出した。この極 めて速い光プロトン移動は,これが通常の意味での A → B という反応というよりは,励起状態波動関数の非局在化 を反映して障壁なしで進む構造変化であることを示唆している。また,すべての分子で分子内振動再分配過程を反 映すると考えられる蛍光ダイナミクス(∼数ピコ秒)を観測した。また対応するスペクトルの時間変化から,分子内 プロトン移動を示す分子ではこの分子内振動再分配にともなってプロトン平均位置の変化がおこると結論した。 b2) DNA 塩基対のモデル分子として重要な7−アザインドール二量体の光プロトン移動反応をフェムト秒時間分解蛍

光分光法を用いて研究した。この反応の機構については,二つのプロトンが協奏的に移動するのか(協奏的機構),一 つずつ段階的に移動するのか(段階的機構)に関して激しい論争がある。これまでのわれわれの研究で,反応前駆体 からの蛍光が2成分からなることがわかっており,これと反応機構との関係を明らかにすることが急務であった。 蛍光ダイナミクスの励起波長依存性を詳細に調べたところ,長波長励起の場合,反応前駆体からの蛍光減衰が単一 指数関数的になることがわかった。これは,二つのプロトンの移動が実験的に単一の過程として観測されているこ とを意味している。よって,(プロトンが一つだけ移動した中間体は観測されないという意味で)溶液中で反応は協 奏的に進むということが明確になった。

b3) アゾベンゼンのS2(ππ*)励起に伴う光異性化はこれまで信じられていたのとは異なり,平面型のS1(nπ*)状態に緩和

してから進むということがこれまでのわれわれの研究で明らかになってきている。このことをさらに確定的にする ために,S2励起とS1励起によってフェムト秒時間分解吸収スペクトルを測定し,これまで断片的にしか得られてい なかった吸収データの全貌を明らかにした。これにより,以前報告されていたデータには問題があって,時間分解吸 収データ自身はわれわれがこれまでに得ているラマン分光・蛍光分光のデータと矛盾しないことを示した。さらに, 時間分解分光によって得られた分光学的データと過去の光化学的データを統一的に考察することにより,アゾベン ゼンのS1状態の高い振動状態からはN=N結合回りの回転運動に関係した(シス体には失活しない)緩和経路が存在

(2)

研究系及び研究施設の現状 145 することを提唱した。

c1) 水和電子の電子吸収に共鳴させて水のピコ秒時間分解ラマンスペクトルをはじめて測定し,バルクの水の変角振動 バンドの約30 cm

-1

低波数側にきわめて大きい強度をもつ過渡ラマンバンドを観測した。時間分解測定により,この 過渡ラマンバンドの時間挙動が水和電子の過渡吸収時間変化と同一であることを確認し,観測された過渡ラマンバ ンドを電子周りの局所的溶媒和構造の振動が選択的共鳴効果をうけて現れたものであると結論した。さらに近赤外 マルチチャンネル検出器を用いてピコ秒近赤外時間分解ラマン測定装置を製作し,800 nmをプローブ光として水 のOH伸縮振動領域の測定を行った。この領域には強い過渡ラマンバンドは観測されず,OH伸縮振動領域の共鳴増 大は変角領域に比較して著しく小さいことがわかった。

c2) レチナールの共鳴ハイパーラマン散乱の励起波長依存性を測定し,このきわめて例外的に強いハイパーラマン散乱 の共鳴機構を考察した。その結果,このレチナールのハイパーラマン散乱の共鳴効果は,大きな二光子遷移確率をも つ

1Ag状態との共鳴ではなく,小さい二光子遷移確率しかもたないがきわめて大きい一光子遷移確率をもつ

1Bu状態

との二光子共鳴によって現れていることがわかった。ハイパーラマン過程は,二光子遷移(上向き)と一光子遷移(下 向き)からなっているために,必ずしも二光子遷移確率が大きい状態が大きい共鳴効果を与えるわけではないこと が明らかになった。

d1) 短寿命化学種の低波数(テラヘルツ)領域の分子振動を観測するために,時間分解分光と時間領域分光を組み合わせ た時間分解インパルシブ誘導ラマン散乱測定を行った。トランススチルベンS1状態をはじめとするいくつかの芳香 族分子の電子励起状態の低波数ラマンスペクトルに対応する信号を時間領域で得た。さらに,実験において観測さ れた(インパルシブ誘導ラマン散乱以外の)過渡回折信号の由来を明らかにし,このタイプの測定で得られる信号の 全貌を明らかにした。

d2) 自発ラマン散乱測定において蛍光はきわめて大きな問題であり,蛍光とラマン散乱を分離することはラマン分光測 定の重要な問題の一つである。フェムト秒光パルスを励起光とし,アップコンバージョン法を利用して自発ラマン 散乱と蛍光を時間的に分離する試みを行った。これはパルス励起と時間ゲートの組み合わせによる蛍光除去ラマン 測定の一つであるが,現時点で最高の時間分解能による実験であり,最高の蛍光除去比が得られた。反面,フェムト 秒励起によるエネルギー分解能の低下のため,観測されたラマンバンドには顕著なエネルギー広がりが見られ,こ れ以上の時間分解能の向上は意味がない。よって,これは時間ゲートを用いた蛍光除去ラマン散乱測定としては限 界的なものであるといえる。

B -1) 学術論文

T. FUJINO, S. Yu. ARZHANTSEV and T. TAHARA, “Femtosecond Time-Resolved Fluorescence Study of Photo-

isomerization of trans-Azobenzene,” J. Phys. Chem. A 105, 8123 (2001).

M. MIZUNO and T. TAHARA, “Novel Resonance Raman Enhancement of Local Structure around Solvated Electrons in

Water,” J. Phys. Chem. A 105, 8823 (2001).

S. TAKEUCHI and T. TAHARA, “Excitation-Wavelength Dependence of the Femtosecond Fluorescence Dynamics of 7-

Azaindole Dimer: Further Evidence for the Concerted Double Proton Transfer in Solution,” Chem. Phys. Lett. 347, 108 (2001). K. IWATA, S. TAKEUCHI and T. TAHARA, “Photochemical Bimolecular Reaction between Biphenyl and Carbon Tetrachloride: Observed Ultrafast Kinetics and Diffusion-Controlled Reaction Model,” Chem. Phys. Lett. 347, 331(2001).

(3)

146 研究系及び研究施設の現状

A. UGAWA, T. TAHARA and D. B. TANNER, “Far-Infrared Pump-Probe Measurement of an Organic Semiconductor β’- (BEDT-TTF)2ICl2 using Synchrotron Radiation Source,” Ferroelectrics 249, 31 (2001).

B -4) 招待講演

T. TAHARA, “Ultrafast Dynamics of Condensed-Phase Molecules Studied by Time-Resolved Vibrational/Electronic

Spectroscopy Using 10 fs - 2 ps Optical Pulses,” Conference on Structure and Dynamics in Complex Chemical Systems, Bangalore (India), January 2001.

T. TAHARA, “Photochemistry of Fundamental Molecules Studied by Femtosecond Time-Resolved Fluorescence Spectroscopy,”

Indian Association for the Cultivation of Science, Calcutta (India), January 2001.

T. TAHARA, “Ultrafast Dynamics of Solution-Phase Molecules Studied by Time-Resolved Spectroscopy,” Indian Institute of

Technology, Kharagpur (India), January 2001.

T. TAHARA, “Photochemical Dynamics in Condensed Phase Studied by Femto/picosecond Time-Resolved Spectroscopy,”

The 5th RIKEN International Conference “Coherent Control in Matter,” Hayama (Japan), April 2001.

T. TAHARA, “Femtosecond Fluorescence Study of Double Proton Transfer of 7-Azaindole Dimer: Concerted or Stepwise?”

IMS Mini-Symposium, “Intracluster Photochemical Reaction: Proton Transfer VS Hydrogen Transfer,” Okazaki (Japan), May 2001.

T. TAHARA, “A New Observation and A New Method in Time-Resolved Raman Spectroscopy,” The 10th International

Conference on Time-resolved Vibrational Spectroscopy (TRVS 2001), Okazaki (Japan), May 2001.

T. TAHARA, “Coherence, Relaxation and Reaction of Solution-Phase Molecules Studied by Femtosecond Nonlinear

Spectroscopy,” The 17th International Conference on Coherent and Nonlinear Optics (ICONO 2001), Minsk (Belarus), June 2001.

田原太平 , 「時間分解分光による凝縮相光化学ダイナミクスの研究」, 東京大学物理教室 , 東京 , 2001 年 7月 .

田原太平, 「フェムト秒∼ピコ秒領域における凝縮相分子ダイナミクスの新しい観測と問題」, 日本物理学会2001年秋季大 会 , 徳島 , 2001年 9月 .

田原太平 , 「ピコ秒・フェムト秒領域の振動分光と凝縮相ダイナミクス」, 平成 13年度分光学会赤外ラマン部会シンポジウム, 2001年 10月 .

田原太平, 「超高速光プロトン移動のフェムト秒分光」, 戦略的基礎研究―C R E ST ―「サイクル時間域光波制御と単一原子 分子現象への応用」チーム第 4回研究会 , つくば , 2001 年 11月 .

田原太平 , 「フェムト秒∼ピコ秒領域の凝縮相分子ダイナミクス:光化学・緩和・コヒーレンス」, 平成 13年度東北大学物理 化学コロキウム, 仙台 , 2001年 11月 .

竹内佐年, 「フェムト秒蛍光分光で観た溶液中7-インドール二量体のプロトン移動ダイナミクスとその機構」, 分子科学研究 所ミニ研究会 「光プロトン移動反応― 7-アザインドールを中心として」, 岡崎 , 2001年 3 月 .

B -5) 受賞、表彰

田原太平 , 光科学技術研究振興財団研究表彰(1995). 田原太平 , 分子科学研究奨励森野基金(2000).

田原太平 , T R V S Outstanding Y oung R esearcher A ward (2001).

(4)

研究系及び研究施設の現状 147 水野 操 , T R V S Outstanding Poster A ward (2001).

B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

日本分光学会東海支部幹事(1999-2001). 学会の組織委員

第 9 回放射光学会年会プログラム委員(1995). 分子構造総合討論会プログラム委員(1997).

分子研研究会「凝縮相ダイナミクス研究の現状と将来」主催者(2000).

分子研ミニシンポジウム「分子科学の未来展望:時間分解振動分光(F uture A spect of Molecular Science: Mini-Symposium on T ime-R esolved V ibrational S pectroscopy)」オーガナイザー (2000).

分子研ミニシンポジウム「光プロトン移動反応― 7-アザインドールを中心として」主催者(2001).

T he T enth International C onference on T ime-R esolved V ibrational S pectroscopy, L ocal Organize C ommittee(2001).

B -7) 他大学での講義、客員

名古屋大学 , 総合科目「自然の科学―こんなに面白い」, 2001 年 12月 . 理化学研究所主任研究員併任 , 2001年 4 月 1日 -.

C ) 研究活動の課題と展望

本研究グループでは超高速時間分解分光をベースとして凝縮相の分子ダイナミクスを研究する。特に現在フェムト秒からピ コ秒時間領域における光化学ダイナミクスの解明に力点をおいている。フェムト秒時間領域においては分子の核運動のコ ヒーレンス(核波束運動)を実時間で観測することができるが,化学反応におけるコヒーレンスの意義については未だ明らか でない点が多い。このことを念頭におきながら,電子状態に対する分光,振動状態に対する分光,核波束運動を実時間で観 測する分光を駆使して,凝縮相のダイナミクスについて多角的かつ総合的な研究を行う。今後は,溶液中の基本分子の研 究に限定することなく,複雑系や多様な相における分子のダイナミクスについても精力的に研究を行っていく。

参照

関連したドキュメント

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院

海洋技術環境学専攻 教 授 委 員 林  昌奎 生産技術研究所 機械・生体系部門 教 授 委 員 歌田 久司 地震研究所 海半球観測研究センター

関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授 小宮山 庄一 危機管理室⻑. 岩田 直子

【対応者】 :David M Ingram 教授(エディンバラ大学工学部 エネルギーシステム研究所). Alistair G。L。 Borthwick